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淡路人形浄瑠璃資料館
大鳴門橋記念開館
有馬玩具博物館


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有馬温泉から、ちょっと足を伸ばして

 大切な宝が段々、失われようとしている。日本各地に見られる伝統的な技術や伝統芸能がその後継者不足に喘いでいるのだ。兵庫県、淡路島にある人形浄瑠璃もその一つ。かつてこの島には3つの人形浄瑠璃一座が存在した。ひとつは市村六之丞座で、これは

にあり、ひとつは淡路玄之丞で姫路歴史博物館に蔵している。残るひとつは、実際に見ることが可能な大鳴門橋記念開館にある吉田伝次郎座である。三座といっても2つは博物館で、実際に人形をあやつり、演じるのは吉田伝次郎座のみ。この一座には、現在18人が所属しており、9〜10人が交代で人形浄瑠璃座を演じている。

 かつて淡路島は人形浄瑠璃の宝庫として脚光を浴びた時代があった。蜂須賀公が手厚く保護したため、江戸期には隆盛をきわめている。そもそも人形浄瑠璃が起こったのは室町末期にさかのぼる。西宮の戎神社の傀儡子だった百太夫が海を渡り、三原までやってきた。彼はこの地で、地元の娘と結ばれ、引田百太夫と名のることになる。百太夫は神事芸能であった戎舞いを伝え、これが三番叟になり、3人で一体を演じる人形浄瑠璃へと発展していくのである。

 よく人形浄瑠璃と文楽を混同する人がいるが、これは厳密にいうと別物。演じる場所も人形の動きも違っている。ただ、全くの別物かというと、さにあらず。文楽は人形浄瑠璃が変化していったものであるから、その出所は同じということになる。

 文楽とは淡路島(仮屋)の興行師、上村文楽軒が始めた人形劇である。上村は興行師として地元で公演を行なっていたものの、うまく行かず、喰うに困って大阪に出た。かの地で小屋を持ち、人形浄瑠璃を始める。ただ、常設の小屋なので野がけで行なう人形浄瑠璃のような大きな人形もいらず、ひとまわり小さくしたものへと変化していく。変化したものは何も人形の大きさだけではない。小屋で行なうメリットを利用し、大ぶりな演技も、小さく繊細なものへと移っていったのだ。

 上村文楽軒が文楽座を大阪で旗揚げし、次第に流行って行った過程には近松門左衛門や竹本義太夫の存在も見逃せない。時の流行作家やその節まわしを変えたという浄瑠璃語りが登場してきたことも隆盛へと導かれる要因であった。

 人形浄瑠璃は文楽だけに影響を与えたのではなく、文献をひもとくと、全国52ヶ所に伝播している。神奈川県厚木市にある相模人形芝居長谷座もそうであるし、山梨県大月市の追分人形、山口県光市の島田人形、大分県中津市の北原人形などもそうである。これらは全て人形の三人遣いによるもので、「この操法は人形浄瑠璃により完成し、義太夫節による三人遣いの人形芝居が各地に伝播していった」と述べてある。

 人形浄瑠璃によるこの形体は日本だけではなく、遠く英国まで伝わった事が最近わかった。それは誰もが知っているサンダーバード人形である。サンダーバードは1965年に英国で始まったTV番組である。精巧な人形劇で、日本でも放映され人気を博した。

 サンダーバードは平たく言うと私的国際救助隊で、大富豪ジェフ・トレーシーが5人の息子とともに世界で起こる災害や大事故から人命を救うというのが内容。これらは全て人形が演じるのだが、その作者もひとりではなく配役ごとに製作者が違っている。その中でもレディ・ペネロープの運転手役として登場するのがパーカーである。パーカーはジョン・ブルンダールという人が製作を担当している。

 このブルンダールは在日経験があり、人形浄瑠璃の造作に関わっていた。彼が滞在していたのは1960年頃、神戸の長田でその仕事についていたという。元々日本に興味を持ち、来日したブルンダールは能面作りの修行を積み、次第に人形浄瑠璃の修理や造作を業とするに至った。

 数年間、滞在した後に帰英を果たしたのだが、英国に帰った頃に製作総指揮者であったジェリー・アンダーソンから声がかかり、TV「サンダーバード」に人形制作者として参加する事が決まった。

 ブルンダールはパーカーを作る際に、人形浄瑠璃の作り方が頭に浮かんだ。英国の人形にあの繊細な動きを取り入れたいと考えたのだ。
 今では不思議に思えることだが、サンダーバード以前の欧州の人形は手足は動くものの、目や口が動くことがなかった。ブルンダールは糸引きで目や口を動かす手法を、磁石で実現させた。例えば、上唇と下唇に電磁石を配することで、上下に動くようにしたのである。この手法は英国人達を驚かした。「まさに、リアルだ!」ということになり、全てのサンダーバード人形にこの手法を導入しTのである。
  この話は有馬玩具博物館の西田館長が2002年に、グラスゴーでブルンダールに会い、聞いた話である。
 サンダーバードといえば、TV界で金字塔を作った人形劇の傑作。日本人はただ、楽しく見ていただけで、こんな話が水面下であったことすら知らない。この話を海外に向けてもっと訴求し、人形浄瑠璃のすばらしさをアピールしていかなければならないと思うのは筆者だけだろうか。

さて最後に人形浄瑠璃にまつわる話をもうひとつ。かつては神戸に神戸人形というからくり人形が存在した。当然今は廃番で作られていない。この人形も人形浄瑠璃の作家達が造作していたというのだ。

 明治中期頃になると、トーキーが入ってくる。このトーキーに人気が移り、人形浄瑠璃は衰退の道をたどるのである。この頃、喰えなくなった造作者は喰うためにからくり人形づくりを始める。当時は流石に高価なものだったらしく、その大半が海外の土産品として持ち出されたようだ。小さな黒い人形はこっけいな動きをし思わず笑ってしまう。こんな面白い人形(精巧な人形)を考え出した所に、人形浄瑠璃の技術の高度さがあらわれている。

 衰退した神戸人形、唯一の座を残すのみとなった人形浄瑠璃。精巧で繊細と海外でも評価を得た、これらの芸能技術に、わが国はいつまで傍観者的立場をとり続けるのだろうか。
 
 ブルンダールが作ったパーカー人形や少数しか存在しない神戸人形は有馬玩具博物館で観賞することができます。

文 曽我和弘




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