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産婦人科ないかな、と聞かれてもねぇ・・・

                      「カトウくんのおまけ」 (ダンク出版)より抜粋
 知り合ったのは、からくり作家の西田明夫さんの紹介です。加藤さんは、おもちゃについての構想を僕に語ったとき、「販売する」という営業的要素と、「見せる」というミュージアム的要素と、「教える」という学校的要素・・・この三つを、有馬なら組み合わせできると言いました。話を聞くなかでいちばん動かされたのは、あるとき真顔で「金井さん、この近くに産婦人科ないかなあ」と言うんです。こっちも少しあわてて「えっ、どないしたん?」と聞くと(笑い)、彼いわく、妊婦さん相手にこれから生まれてくる子のためにおもちゃをつくる教室を開きたい。そのおもちゃづくりのなかで、赤ちゃんの掌はこれぐらいだから、どんなサイズのものがいいやろうねとか、口に入れても大丈夫な大きさにせなあかんとか、そういうことから一緒に考えていく。お母さんが自分でつくって生まれてきた子に与え、それで一緒に遊び、また成長に合わせて違うおもちゃをつくりたくなる。それを見ていたダンナが、男の子なら、よし俺がクルマをつくろう、ということで、またつくり方を習いに来る。そんなふうにして、自分のつくったものを子供に与えるというのが「本来のおもちゃの姿だ」と言うんですね。そいう過程がとても大事なんだと。だから、まず妊婦さんからつくり方をを教えていきたいということだった。「そうやっておもちゃと出会う子は、きっといい育ち方をするだろう」とも言っていました。

 そのとき、僕は僕で勝手に頭のなかのアプリケーションを開いていました。そういえばうちのお客様は「むかし親父や、お祖父ちゃんによく連れて来てもらったから、いま自分も子供を連れてきた」という人が多い。有馬というのは都会に近く、京阪神の人が、代々ことあるごとに使ってきた温泉地なのです。「一生に一度」というかたちでない。だから有馬は、家族連れが楽しめる温泉地をめざすのが正解や、とあらためて思ったんです。そして、ここにちゃんとしたおもちゃの店があれば、お祖父ちゃんが孫のために買うという場面が生まれる。それはいいことじゃないか・・・というふうに、発想がひとめぐりしていきました。それが、子供の本質、家族の本質と,おもちゃのあり方を結びつける加藤さんの視点と、僕が有馬という温泉地全体に描く将来のイメージとが、ぴったり重なった瞬間ですね。家族という切り口を全面的に押し立てている旅館は、全国にもあまりなかった。うちは昔からそんな感じのやり方でしたから、高齢の方から「昔は新婚旅行できたよ」という話が出るわけです。三代で楽しみを共有できるサイクル、買ってもらう喜びと、買う喜びを、長い時間のなかで伝えていけるサイクルが、ここには現にある。たぶん「アリマリ」(注 加藤が初代店長を務めた有馬の玩具店)も、そういう場のひとつとして認知されつつあると思うんです。

 「アリマリ」のときも、今度のミュージアム(「有馬玩具博物館」)も、加藤さんの近しいひとは理解してくれたでしょうが、事情を知らない人は何をしようとしているか気づいてもいない。そして旅館業界の人は、またあいつアホなことを始めて・・・とか思っているでしょう(笑い)。でも、僕がひとりのからくり人形作家だとしたら、同じものを大量に作って売るよりも、すぐ新しい次のおもちゃの動く仕組みを考えて、それができてまた飽きたら、同じ歯車を使って別のおもちゃができないか考えますね。今日までいろいろなことをやってきたけれで、今回のミュージアムづくりというものは、下手したらここまでの実績がパァになるぐらいのリスクを負っている。けれど同じ歯車を使ってつくるおもちゃには限界がありますが、作風そのものをガラッと変えてまったく新しいものをつくると、そこには大きな飛躍が起こると思います。・・・・・・・・(以下略)



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